『ふたりのハードプロブレム』 感想
以下, ネタバレ注意.
ジャンルとしてはSFでしょうが, 話自体は人間ドラマに重きが置かれているという印象でした.
登場人物がみんな感情豊かで人間臭いのがまた良いところ.
あまりあらすじ等を確認していなかったので, 前情報なしだといい意味で期待を裏切られて, 読んでいて楽しかったです.
例えば希海は自堕落でコミュニケーション能力が低くて, さらに自己評価も低いという負の側面が強い人間ですが, ルーミングの時はちゃんと相手に向き合って能力を発揮したり, リコには気を遣ってあげたりという優しい一面も見えます.
正負の側面がキチンと見えるので, 登場人物がちゃんと活きていて, 感情移入しやすいのはそれだけで良いところでしょう.
登場人物達は物語が進むと, ちゃんといいところだけでなく悪いところも(希海の場合は逆ですが)見えるので, みんなが人間臭く感じられるのが良いです.
個人的には, それまで掴みどころがなかった東さんの, ラスト間際で希海との会話の中で発している『私の若い頃』という言葉の重みがすごく好きです.
ここの会話は東さんが暗い過去を背負っていることがしっかり反映されているセリフで, さり気ないしあからさまではないのにその重みが感じられるところが好きです.
前半ではリコの性格が希海とは対照的に, 特に記憶がないだけ純粋で無邪気な世間知らずのアンドロイドといった印象な分, 後半の記憶を取り戻してからの希海への物言いと閉律症になってからの性格の変化には驚かされます.
リコには終始アンドロイドという記号が与えられ作中でもそれに振り回されるという雰囲気こそありますが, 後半のリコの変化には確かに人間臭さがあり, 確かにリコも人間として描かれているのだと思えます.
そのためにリコの心についての悩みは余計ややこしいし本人もすごく悩んでいるようですが, リコの描かれ方を見ているとその答えはもう出ているのではないかとも思います.
少し話は変わりますが, 希海はずっと『機械になりたい』と繰り返していて, 本人の目の前でなんてことを, と読者としては思います.
ここでの機械というのが何を指しているのかは少し曖昧で, 希海の言い方的には何か産業ロボットに対応するものを指しているのかなとも思いますが作中に出てくる機械はアンドロイドくらいで, しかもリコも自分のことをはっきりと機械と言います.
機械のリコがこんなに悩み苦しんでいるのに機械になれば救われると考えているのはなぜだろう?という疑問が残りました.
でも逆に希海にそういう思いがあるからこそ, リコが自分は機械だから苦しくないはずみたいな(正確なセリフを忘れたので曖昧)強がりを言うシーンでは切なさを感じてしまうのかもしれません.
アンドロイドだけかと思ったら精神世界のアクロバティックバトルが描かれたり, キャラクターの印象がガラリと変わって裏の面が見えたり, そういう意味で期待を裏切られたので読んでてとても楽しかったです.
どこかから借りてきたような不思議語彙の数々も相まって硬派なSFの印象ですが, 希海とリコが成長し, 二人で助けあって苦難を乗り越えるドラマはとても純粋で心を動かされました.
続編が出ればまた読みたいです.